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京都 『丹波ワイン』

大阪を離れ、次は京都へ。
関西ワイナリーめぐりの旅、最後にうかがうのは丹波ワインです。

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JR園部駅からバスで揺られること30分。そこからさらに10分ほど歩きます。
停留所からの道中には、道標代わりの看板やのぼりがたくさん。

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この日の朝、大阪では前日に続いて雪がちらついていたため、京都はもっと寒いんじゃないかと覚悟していました。
でも幸いなことに思ったほどではなく、ひと安心。

出迎えていただいたのは醸造担当の内貴さんと栽培責任者の末田さん。
内貴さんは非常に魅力的な女性で、帽子がとてもよくお似合いです。
人柄がうかがえる、さっぱりとした明るいトークに惹きつけられます。

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末田さんはワイン造り、そしてワイナリーのすべてを知る生き字引のような人物です。
しかもなお、さまざまな新しい試みに意欲的。
「早くしないと定年になっちゃうから、急いでるんです。」
淡々と語る口調には、飄々としたユーモアが感じられます。

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今回、お会いした造り手の方々に共通して感じられたのが、このなんともいえない「おかしみ」。
出身は関西ではない方でも、やはりご当地の文化の影響でしょうか。
どなたも冗談めいた言葉の奥に、人間味が透けてみえる気がします。

末田さんと内貴さんのお二人も、傍から話を聞いているだけで楽しくなる名コンビ。
チームワークのよさが伝わってきます。
こんな風通しの良さは、必ずワイン造りにも反映するはず。

実は今まで丹波ワインには
『百貨店の銘酒売り場に並んでいるワイン』というイメージを持っていました。
そのせいか、勝手に敷居の高さのようなものを感じていたのですが
現場のお二人は本当に気さくな方たちでした。やっぱり思い込みはよくないですね。

まずは畑を見せていただくことに。
自社畑はワイナリーの敷地内。建物の目の前に広がっています。

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大阪では山の斜面に広がる畑を多く目にしましたが、こちらはフラットな平地。
もともとは農作地ではなかった場所を開墾しています。

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必ずしも好条件とはいえない土地を切り開き、充実した葡萄の栽培を目指す。
そこに、いろいろな苦労があることは容易に想像できます。
しかし末田さんにとっては、やりがいのある挑戦でもあるようです。
畑を案内してもらいながら「次はこんなやり方を試したいと思ってるんです」
というお話をいくつもうかがいました。

「最初は醸造を担当してたんですが、そのうち畑のほうが面白くなってしまって」
末田さんの言葉の端々には、何か新しいことを生み出してやろうという
いきいきとした探究心と企みが感じられます。

育てている栽培品種も実にさまざま。試験品種も含めると、なんと40種類にのぼります。

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温暖な地に多い品種もあれば、いわゆるドイツ系品種もたくさんあります。
この豊かな経験はいずれは丹波ワインだけではなく、
日本ワイン全体の財産にもなっていくのかもしれません。

ワイナリー入口付近に植えられているのはタナやソーヴィニヨン・ブラン。
タナは秋雨に強いのではないかという理由で、試験を始めたというお話でした。
着色はカベルネ・ソーヴィニヨンより遅いけれど、成熟するのは逆に早いそうです。

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一方で古くから栽培されている品種も少なくありません。
ワイナリー創業とほぼ同時期に植えられたリースリングは、すでに樹齢30年。
ピノ・ノワールも20年に達するそう。
これだけ樹齢の高いピノは、全国でもそれほど多くはないはずです。

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下草についてもいろいろな可能性を模索中。
イネ科のソルゴーは水をとらせる目的で植えられています。

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また台木や苗木の栽培・研究にも余念がないとのこと。
末田さんの情熱は、まさにとどまるところを知りません。

自社の畑は約3ヘクタール。
かなりの広さですが、常駐の栽培スタッフは2名だけだそうです。

大阪ではどこへ行ってもイノシシの話題を聞きましたが、こちらの悩みの種はタヌキとアライグマ。
獣害の被害は日本中、どこでも共通で深刻なようです。
鳥よけ(?)のCDもぶらさがっていました。

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建物からしばらく歩いた場所の畑は、野球のグラウンドと隣り合っていました。
このときも高校生たちが練習中。
ホームランが出ると、全部、葡萄樹の中に飛び込んできそうです。
この球場では、現西武ライオンズの銀仁朗選手もよく練習していたとか。

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収穫時期は、8月下旬のソーヴィニヨン・ブランを皮切りに、
10月上旬のカベルネ・ソーヴィニヨンまで絶え間なく続きます。

収穫スタッフももちろん大変ですが、この時期は葡萄をバトンタッチされる醸造スタッフの側にも、
息のつけないような忙しさが待っています。
丹波ワインの場合、扱う葡萄は自社の畑のものだけではありません。
その何倍もの量を仕込まなければならないのです。

しかしそんな忙しさの中でもやはり、このワイナリーの現場では
何か面白いことをしてみようという実験精神を忘れることはないようです。

醸造家・内貴さんのワインは基本的にエレガントで優しい印象。

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ワインの個性はもちろん造り手の考え方や手法だけでなく
畑の風土や天候、生育環境など、さまざまな要因の上に成り立ちます。
また個人的にもワイン造りを性別で分けるのはあまり好きではありませんが、
やはりその味わいには女性らしい繊細さが感じられるような気がします。

ところでワインを表現する際に、よく「チャーミング」という形容をすることがありますが
これは捉えようによっては、いわゆる「フルボディ」の逆、つまり「軽い」というような意味にもなります。

もちろんも否定的な言葉では決してないのですが、
私があるワインを飲んで「チャーミングなワインですね」と感想を伝えたとき、
内貴さんは「やっぱりチャーミングって言われちゃうか」とボソリ。

そのつぶやきに、えてして「薄い・軽い」などといわれがちな日本ワインのイメージから
脱却するんだという、造り手としての矜持がちらりと見えたような気がしました。
(ちなみに個人的には「チャーミング」という言葉はホントに賞賛の意味で使ってます。
 もう若くもないので、凝縮感ではなく単に濃さだけを追求したようなワインは正直、キツイのです。)

醸造場にも新しい技術を取り入れた設備がたくさん。
「こんなものまで」という機器があったり、とても勉強になりました。
最新の技術を秘密めかしたりすることなく、オープンに公開するこのスタンスは
山梨県のシャトー酒折にお邪魔したときとよく似た印象。
どちらも伝統にとらわれることなく、真っ当で新しいワイン造りを目指すところが
共通しているのかもしれません。

そしてもちろん醸造手法の分野でも、新たな試みは行われています。
「これ、何だと思います?」と渡されたグラス。
タンクに入っていたワインですが、かなり面白い香りがします。
なんだろうと考えていたら、末田さんが「梅酒の香りがするんですよね」とポツリ。

そうだ、梅酒です!
…でも品種はなんだろう。知っている香りがするようなしないような。

結局、分からないでいる我々に内貴さんが答えを教えてくれました。
正解は、なんと甲州。でも正直なところ、種明かしされてもピンときません。
このユニークさの秘密は、通常は赤ワインで行うある醸造手法でした。

うーむ。なんとも斬新な発想です。丹波ワインスゴイぜ!

さらに「これも飲んでみて」と空けていただいたのが
赤のスパークリング。

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「日本のフリザンテを作ろうと思って」

その言葉の通り、葡萄はランブルスコ。
イタリアを代表する瓶内二次発酵・微発泡ワインのスタイルです。

これがウマい!
今まで飲んだ赤のスパークリングには、
ややキレ味に欠けるものが多い記憶があったのですが、
このワインは赤ワインのボディーと泡の爽快感を見事に両立させています。

これはぜひ食事とともに楽しみたいワイン。
バーベキューなんかに持っていったら、すぐに人気者になれそうです。



醸造所を見学したあとは、改めて試飲コーナーでテイスティングさせていただきました。

まず印象に残ったのはカベルネ・ソーヴィニヨンロゼ。

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まさしくチャーミングなイチゴやチェリーの香り。
酸は穏やかですが、カベルネらしい骨格があるため、単調さに陥ることはありません。
食中酒として、魚・肉、和・洋とさまざまな料理に合いそうです。

丹波カベルネソーヴィニヨン&メルロー2005年は
まず最初にカベルネの香り、そのあとにメルローの個性が現れます。

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二つの品種のバランスがとてもいい。
穏やかな主張のある酸と柔らかなタンニンがあり
もう少し時間が経てば、このふたつの要素が溶け合い、より成熟したワインになりそうです。
オレンジのような果実のニュアンスが非常に魅力的。

ピノ・ノワール2007年は鉄っぽさの中に、
胡椒のようなスパイス香と紅茶のような香りが隠れています。

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赤い果実を思わせるボリュームのある果実味としっかりした酸。
タンニンの強さがやや支配的で、全体的に若い印象。
もう少し寝かせると、素晴らしい味わいになりそうな
とてもスケールの大きなワインです。これは楽しみ。迷わず購入です。

試飲はできませんでしたが、今回はカベルネ・ソーヴィニヨンロゼの
スパークリングも購入。こちらもとても期待大です。


ところでワイナリー併設のレストラン「丹波ワインハウス」は、
仲村わいん工房の仲村さんも太鼓判を推す本格派。

食材の宝庫、丹波産の野菜や肉を中心としたフランス料理です。
残念ながら今回は行けませんでしたが、次回はぜひ食事も楽しみたいと思います。


帰る頃にはすでに外は真っ暗。お二人にはお忙しい中、長時間お付き合いいただき恐縮の限りです。
いろいろなお話をうかがえて、最高の経験ができました。

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本当にお世話になりました。ありがとうございます!

京都駅まで出た私とT氏は、周辺のデパートなどでお土産を購入。
いよいよ旅は終わりです。

今回のワイナリーめぐりは、普段とはちょっと違う非常に濃~い体験でした。
なんだかワイン観とか関西の印象とか、いろんなものが結構変わったような気がします。
同行したT氏にもお世話になりました。おじさん二人旅、本当に楽しかったです。

それにしても関西ワインのレベルの高さは衝撃的なほどです。
もし目にする機会があったら、ぜひ手にとってみてください。
「こりゃウマイ」と思う可能性大ですよ!
by inwine | 2010-01-20 03:47 | ワイナリー訪問
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