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大阪 『仲村わいん工房』

大阪のワイナリー、最後にうかがったのは仲村わいん工房。
以前は知る人ぞ知る、といった隠れ実力派ワイナリーでしたが
近頃は首都圏のワインショップや飲食店でも、かなり目にする機会が増えてきました。

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代表的な銘柄といえるのが「がんこおやじの手造りわいん」。

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毛筆風の縦書き文字だけが記されたエチケットは超個性的ですが
味わいもまた他では出会うことのできない、強烈なインパクトに満ちています。

初めて飲んだときからずっと気になっていたワイナリーでしたが
今回、初めてお邪魔することができました。

まず出迎えていただいたのは、若い中村達也さん。
社長の仲村現二さんと同じ名字ですが、漢字は違います。

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最初「ナカムラです」とご挨拶いただいたときに
思わず「息子さんですか?」と聞いてしまいましたが、血縁関係はナシ。
昨年、仲村社長のもとに弟子入りして、現在は畑を中心に作業していると説明してくれました。

ちなみに仲村さんがつけたニックネームは「社長」。ご本人は「会長」だそうです。
最初は仲村さんが社長で、中村さんを「会長」に据えるつもりだったようですが、
「会長だと仕事をしない気がして」晴れて社長就任となったとのこと。

文章にするとなんだかややこしいけれど、
アットホームな雰囲気が伝わる面白イイ話です。
お二人の関係は、いわゆる経営者と社員にはまったく見えません。
まさに生活をともにしながら、芸を受け継ぐ「弟子と師匠」。

「シャチョー、お茶いれて!」などと言われながら、
中村さんはアレコレと師匠の言いつけに走り回っていました。
私たちも滞在中、何から何までお世話になりっぱなし。
中村さん、ありがとうございました!

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さて到着して、まず見せていただいたのは醸造設備。

これはプレス機。変わった形だなと思っていたら、
なんと仲村夫人のお父さんによる自家製だそうです。

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「こんな感じのモノがほしいって頼んだら作ってくれた」そうですが
とてもハンドメイドとは思えない、堂々たる姿。

別のワイン醸造会社の人がこのプレス機を見て、
「うちでも作りたいから、設計図を貸してほしい」と頼んできたこともあるほど。
けれど、なんと図面はまったく引かずに完成させていたそうです。

仲村さんのお義父さんいわく「同じモノを作れと言われても二度とできない」。
つまり正真正銘、世界に一台だけということになります。スゴイ…。


仲村わいんのワイン造りは何から何まで独創的ですが
その象徴ともいえるのが、生ビールタンクでの熟成。

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一般的にワインは発酵後、木樽やステンレスタンクで寝かせたあとに瓶詰め。
さらに瓶熟成を経て出荷されるというパターンが多いのですが
この熟成工程を、生ビールサーバー用の小さなタンクで行っているわけです。
これは仲村さんが(現在も)酒屋さんで、たまたまタンクの調達が容易だったからこそ。

正直なところ、このやり方によってどんなことが起きるのか
詳しいことは素人の私には分かりません。
しかし、そこには何か通常の工程にはない効果があり、
また同時に、通常の工程では当たり前の作用が起きなかったりするはずです。

しかしそれでも臆することなく「せっかくビールのタンクがあるんだから使ってみよう」と、
未知の領域との境界線をヒョイと飛び越える身のこなしは
正直、カッコイイという以外にありません。

ちなみにビールタンクの利点としては、内部の壁にびっしりと滓が張り付いてくれるため
滓引きの手間が省けることだとか。

打栓機は一本一本瓶詰めする手動タイプがフル稼働。

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この手間も半端ではなく大変なはずです。

醸造に関しても、発見はたくさんありました。
発酵はすべて野生酵母によるもの。厳しい選果の後に、古いタンクを用い、低温で非常に長期間の発酵。SO2の使用は極力控える。
…ってコレ、ローヌやロワールの一部の自然派醸造家とかなり近いスタイルです。
おそらく仲村さんは、そんなことを意識されてはいないのでしょうが。

よく自然派ワインについて書かれた本などを読むと
ワイナリーを訪ね、教科書とは異なる醸造工程を目にした筆者が
驚きを綴っている文章を見ることがあります。
専門的なことは分かりませんが、なんだかその心情が分かったような気がしました。

決して近代的で、規模の大きな施設ではないかもしれないけれど
この醸造場には、決まりきった枠にはまり切らない、強烈な刺激があります。
ワイナリーめぐりの醍醐味をかみしめるような思いでした。

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醸造設備の次は、車で畑を案内していただくことに。
ワイナリー所有の畑は、周辺の4か所に点在しています。
とても歩いて回れる距離ではないので、車は必須。移動にも時間がかかります。

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多くは「山の中」といえる場所で、簡単にはたどりつけません。
畑近くの道は、車一台通るのがやっとのほどの狭い道。
舗装もされていず、車はガタガタと容赦なく揺れます。

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当然のことながら、重機などを入れることは不可能。
立って作業するのさえ困難そうな斜面にも、葡萄棚は広がっています。
ほんの少し見せてもらっただけでも、栽培の困難さは十分にうかがえました。
あの圧倒的な凝縮感のワインは、やはり簡単に生まれるものではないようです。


畑にもビールサーバーが!

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収穫を手伝ってくれた人と開く「収穫祭」のときに、飲むためのものだそうです。

畑はほとんどが棚仕立てで、垣根はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロがわずかにある程度。

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先代の時代に植えられた樹は、歴史を感じさせるさすがの風格です。

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垣根畑はやはりイノシシの被害がひどいそうで、
最近も電流の流れる柵を周囲に設置したばかりだそうです。

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これはウワサのミツオレッド。仲村わいんの味の秘密といわれる葡萄です。

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畑を順番に案内していただいているうちに、雪がちらつき始めました。
今回の関西旅行はちょうど寒波到来と重なってしまったのですが
さすがに雪は初めて。山中の畑はかなりの寒さでした。

こちらは山の中とはうって変わって、周囲を水田に囲まれた平地の畑。葡萄は甲州です。

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狭いながらも国道が通り、近くには路線電車の線路もあります。
水はけや日照など、山の中と条件はまったく違いますが「なかなか面白い葡萄」がとれるそう。
ただし棚の高さが低いため、こちらの畑もやはり作業は楽ではないとのことでした。

これは雨水を貯めて利用するための貯水装置。

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さて、畑を案内していただいたあとは、いよいよ仲村さんとご対面。
実はこの日、われわれ一行は夕食のお招きを受けていました。
同行のT氏が受けたお誘いに、私も図々しく便乗させていただいた格好です。

まずは仲村さんとご挨拶。お礼を述べつつ、二人でおみやげに持ってきたワインを献上です。

この日の宴会には仲村さんのお友達、それに飛鳥ワインの仲村裕三社長も参加。
飛鳥ワインと仲村わいん、ワイナリーの場所も非常に近いのですが
実はこのお二人、お父さん同士がいとこという親戚同士。
年齢も同じということで、近年はとくに交流を深めているそうです。
この夜もいろいろな話題が飛び交っていました。
(ちなみにこの夜も、裕三社長から突然の野球大会への参加要請が!
 翌朝も早くから雪がちらついていましたが、仲村わいんのお二人は元気に参加されていました。タフです。)

ところで今回ご馳走していただいたのは…


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イノシシ鍋!

これがお世辞まったく抜きの絶品。
実はこの肉は、仲村さんの畑に現れたイノシシを猟友会の方が仕留めたもの。
一年間、冷凍してじっくり寝かせ、臭みをとった貴重品です。とにかく脂の旨さが最高でした。
そして自家製の生姜の利いた甘いつゆが、これまたプロ顔負けの美味しさ。
こうした「味」への感性もまた、仲村さんのワイン造りの秘密なのかもしれません。

この日はバックビンテージワインも飲ませていただいたのですが、これがまた凄い。
仲村さんは冗談まじりで「これを超えるワインができたら、もうやめる」と
おっしゃっていましたが、味わいはまさに衝撃的。
「日本のワインなんて云々」という人たちに、飲ませてみたい衝動にかられました。

究極の地産地消というか、鉄板ガチガチのマリアージュというか。
とにかく最高の贅沢を体験させていただきました。

鍋をつつきワインを飲みながら、話題はさまざまな分野に。

お父さんが突然、ワイン造りを始めて困惑した話や
関西のワイン造りの現状や、問題を打開するため、未来に向けてどうすべきかという話題。
醸造を始めたときの苦労。イノシシの被害に頭を抱えたこと…。

こうした話を気負いもなく飄々と語る仲村さんには、とてつもない人間的魅力に満ちています。
「畑は友だちに助けてもらってなんとかやってる」とおっしゃっていましたが
それも、ご本人の人柄あってこそのことなのでしょう。

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食事のあとはお宅に泊めていただいたのですが、
翌朝、ビールを飲みながら(!)こたつでまた少しお話を。

「最初はこれで勉強したんです」と見せていただいた醸造の教科書には
几帳面そうな文字で、いくつもの細かい数値が書き込みされていました。
試行錯誤をしていた初期には、かなりの苦労もあったようです。

斬新に見えるさまざまな新しい試みも
当然のことながら、しっかりした土台の上でなければ成り立つはずがありません。
そんな部分を垣間見せてもらったような気がします。


思いもかけないような歓待をしていただいたうえ
貴重な話をたくさん聞かせてもらうことができて、最高の体験でした。

次の目的地へ向かう電車の中で
「今度、仲村さんのワインを飲むときはいろいろ思い出すだろうな…」と
T氏としみじみ語り合いました。

仲村さん、本当にありがとうございました!
by inwine | 2010-01-10 17:06 | ワイナリー訪問
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