新潟県のワイナリー、カーブドッチに行ってきました。
案内をしていただいたのは、ワイナリー立ち上げの一員である常務の今井卓さん。 畑を目の前に、地勢の話からスタートです。 実はこのワイナリー、海まで約800メートルの距離。 日によっては波の音が聞こえてくるという立地です。 そのため土壌はこんな風に完全な砂地で、まるで海岸のようです。 落とした後も、ほとんど手に残らないほどサラサラでした。 長梢に仕立てられたシャルドネ畑の中で 仕立て、剪定、誘引、芽かき、 樹勢のコントロールや樹間の設定などの細かい話から 新潟の風土や食文化というマクロな内容まで、話題は多岐に渡ります。 今井さんによれば、このあたりはかなり温暖な気候。 歩いていけるほど近くで雪が積もっていても 畑にはまったく降らないということも多いそうです。 ワイナリー建設にあたりこの地が選ばれたのも、 なんらかの地縁というより、土地の特性がワイン造りに向いているという 実利的な判断の結果だったそうです。 醸造所としての特徴はまず扱っている品種の多さ。 ツヴァイゲルトレーベをはじめとするドイツ系。 カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネなどフランス系。 あるいはイタリア系のサンジョヴェーゼまで。驚くほどのバリエーションです。 ドイツ系品種が多いのは、実は北海道ワインとの関係から。 カーブドッチの落社長は北海道ワイン・嶌村社長と血縁関係で ワイナリー造りの基礎を北海道で学んでいた時期もあるそうです。 今回、さまざまな話をお聞きする中で、 最も感銘を受けたのが果敢なチャレンジ精神でした。 栽培・醸造合わせて社員は6名という少数精鋭ですが どの分野においても、さまざまなレベルで新たな試みが続けられています。 そのため品種によっては、年ごとに造りががらりと変わり まったく異なるスタイルのワインが生まれることも。 またある時期には、天然酵母での発酵にも挑戦。 やはり試行錯誤があったようですが、 その成果は現在のワイン造りにも生かされています。 現在は醸造・栽培両方の統括的な立場にいるため、 なかなか時間がとれないという今井さんですが 少し前までは畑にも積極的に出ていたそうです。 このあたりのような完全な砂地では、メルロの栽培はなかなか難しいようですが 今井さんはみずからが独りで世話をする区画を持ち、 独りで笠かけをするなどして、立派な葡萄を育て上げたりもしたそうです。 また、やはり小区画限定で無農薬栽培に挑み、驚くような成果を得たことも。 「わずかな日陰があって、日の出直後の朝日が当たらないだけで 葡萄の生育はがらりと変わってしまうんです。」 実例を交えた今井さんの話には、説得力に満ちていてとても刺激的でした。 こうした挑戦の精神は、実は創業時から脈々と受け継がれてきたものです。 新興ワイナリーが葡萄栽培から手がけるという例は、 当時はほとんど例がありませんでした。 同業の全員が無謀だといって反対したそうです。 しかしあえて自社葡萄にこだわったワイン造りを決意。 新しいワイナリーリゾートのモデルを作り上げることで 見事に成功を収めました。 今井さんたちの試みには、ときに大胆すぎることもありましたが その分、大きな発見も少なくなかったようです。 しかしそれでも「まだまだ分からないことだらけ」と今井さん。 「すべてが偶然かもしれないですからね」という言葉からは 自然への畏敬の念が伝わってきました。 多くの可能性を追い求める一方で、 「ワインは余計なことをしすぎず、自然な造りがいいんだと気づきました」とも。 以前、下草としてマメ科の植物を植えたのですが、 「この場所の生態系にないものを取り入れるのは、やっぱり不自然」と 考え直したこともあったそうです。 試飲をお願いしているときには、こんな話も。 「お客さまにはよく『ワイン造りは流木を削って、彫像を造るようなものだ』という話をするんです。 荒っぽく削って、ワイルドな味を出している像もあれば、 しっかり削りこんで、写実的でリアルな像もある。 ワインもそれと同じ。もちろん巧拙もあるけれど、いろんなやり方があるのがワインなんです。」 今井さんには結局、4時間以上もお話をうかがうことができました。 お忙しい中、お付き合いいただき、ありがとうございました! 夜はワイナリー併設のレストランで、フレンチの夕食。 メニューにはなかったのですが、 幸運にも「ピノ・ノワール Private Reserve 2006」をお願いすることができました。 果実のコンフィチュール、バラ、シナモン系のスパイス。 味わいは黒系果実、植物的なニュアンスも。 肉付きのよさをしっかりした酸が支えていますが、 やや堅く閉じている印象もあります。 抜栓30分後、奥のほうにあった果実味が少しずつ開いてきました。 日本のピノ・ノワールには珍しいボリューム感があり、 モダンなスタイルを感じさせるワインです。 重厚なポテンシャルがはっきりと伝わってきて、 あと数年熟成させたら、さらにいい感じになりそう。 でも、その頃にまた会うことはできるんでしょうか? ワイナリーの敷地内にはスパや岩盤浴などを備えた温泉宿泊施設や、 天然酵母のパン(絶品!)、ジェラート、 地ビールと自家製ソーセージなどの美味しい店も充実。 大人が楽しめるリゾートです。 ちなみに、周辺にはびっくりするぐらい人懐こいネコがたくさんいます。 今回は宿泊もしたのですが、部屋も広く、清潔で とても快適な旅を楽しむことができました。 小さなワイナリーめぐりも楽しいけれど、こんな旅行ももちろん最高。 温泉とワインと美味しいものが好きな方はぜひ!
by inwine
| 2009-12-05 13:10
| ワイナリー訪問
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