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九州の旅<5> 都濃ワイン
まだまだ続く九州の旅。次は宮崎・都濃ワインを訪ねました。

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3月の日本橋・Marche de Vinshuでお会いした小畑さんにご連絡したところ、
あいにく訪問日には出張でいらっしゃらないとのこと。
「代わりに赤尾という者を訪ねてください」とのお言葉をいただきました。

この日も朝からシトシトと雨でした。
でもワイナリーに着き、しばらくするとすっかりいい天気に。
そしてちょうど帰る頃になって、また少し降り出しました。
まるでこちらの訪問に合わせて晴れてくれたようです。

実は前日の熊本ワインでも、
偶然がいくつも重なったようなラッキーな出来事がありました。
日ごろの行いが良いとやっぱり報われるんだな、としみじみ実感した次第です。
サンキュー神様! 帰りの飛行機も安全運転でよろしく頼むぜ。


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赤尾さんは34歳。
地元の農業高校出身で、18歳から葡萄作りにかかわってきたそうです。
現在は小畑さんの右腕として、栽培・醸造の両方に携わっています。

ごあいさつを交わし、すぐに醸造設備の見学へ。
清潔な室内には近代的な機器の数々がずらりと並びます。
中には日本でここにしかないという設備も。

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しかし何よりもガツーンとショックを受けたのは、赤尾さんのお話でした。

「ワイン造りはもちろん大事なことだけれど、
 それだけを追い求めるのは、なにか小さい気がする。」

赤尾さんが理想とするのは、自らが根付く地域の再生。
それは単純な町おこしや活性化ではなく、
本来、社会がそうであるべき機能的で健全な姿を
取り戻すことを意味しています。

人、風土、地元。
それらをすべて含んだものこそが、
本当のテロワールなのだと赤尾さんは言います。

目の前の利潤追求や、硬直した因習に縛られることなく
生産者、流通者、消費者のすべてが
胸を張って気持ちよく「当事者」となれるものづくり。

「醸造家は畑へ行ったほうが良いし、農家はワインを知ったほうが良い。
 自分は18から葡萄作りにかかわってきた強みがある。
 これからも農家の人たちと積極的にかかわりながら
 枠にとらわれないワイン造りをしていきたい。
 みんなのワイン、みんなで作るワインを目指したいんです。」

赤尾さんの高く、大きな志は当然のことながら
農業の姿勢そのものにも明確に現れています。

ワイナリーの建物を出てまず向かったのは
葡萄ではなく、くぬぎの木。赤尾さんが土を掘り起こします。

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表面を覆う土は落ちた葉が有機的に分解されてできたもの。
当然その下にあるのもより古い時期に、同じ過程を経てできた土です。

やがて現れたのは土中の浅い位置にある毛細根。栄養分を吸う根です。
この部分の土は香りがしっかり。なめてみると味も濃厚でした。
しかし、さらに少し掘ると根は太くなっていきます。
この部分の土はにおいがやや弱め。
つまり、有機質が少なく栄養分が少ないわけです。

これがまず講義の第一章。これを元に次はズッキーニの畑へ。
収穫間近というズッキーニを手に取り、ぽきりと二つに折ります。
するとねっとりとしたみずみずしい露が、びっくりするほど滴ります。
折った後に再び合わせると、ぴたりとくっついてしまうほど。
(ゆでて食べるとトウモロコシのような味がするそうです)

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「これを収穫しないで放っておくと、どうなると思います?」と赤尾さん。
「中がスカスカに?」
「そう。それで実が大きくなっていくんですよ。」

中の種が周囲の栄養分を吸い取ってしまい、
その結果、細胞が壊れて膨張してしまうんだそうです。
うーむ、なるほど。

これが第二章。
ここまでの予習を終えて、葡萄畑へ向かいました。

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赤尾さんが実践するのは、従来の栽培の常識とはまったく異なる手法です。

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ヨーロッパの銘醸地を例に、こんな風に説明してくれました。
「向こうの土地は、潮が満ちてきたときに
 畑の土を少し掘ると、 水が染み出してくるといいます。
 たとえ高い丘の上でもそう。
 ヨーロッパの葡萄畑にはそういう地勢的な条件がある。
 でもここの畑の土地にはそんな水の流れはありません。
 だから単純に水を与えない、というやり方ではダメなんです。」

実際に水をよく吸わせた土地とそうでない土地を
比較できる場所があったのですが、明らかに様子が違います。

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また葉が大きくなりすぎると、
肥料のやりすぎをまず考えるという話をよく聞きます。
しかし赤尾さんにとってはまったく逆。
それは栄養が足りない結果なのだといいます。
これはさきほどのズッキーニと同じ理屈。

栄養をきちんと得ることで、葡萄は健康に育つ。
だからこそ病気も少なくなり、農薬を使わずに育てることが可能になるそうです。

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水や肥料を与えず、厳しい環境を作るというのが葡萄作り、
という漠然としたイメージを持っていた私にとっては
まさに目からウロコの体験でした。

シャルドネ、ピノ・ノワール、シラー、テンプラニーリョ。
どの畑にもそれぞれの成功と問題点、新しい疑問と解けた答え、
試みと回帰があります。

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そのすべてと付き合うためには、ひとつの葡萄をじっくりと見つめ続ける
「定点観測」しかないと赤尾さんは言います。

特に印象的だったのは下草の話。
「雑草という名の植物はないんです」と、ひとつひとつの草の名前、
季節ごとの移り変わり、そしてこの畑の生態系で持っている役割を教えてくれました。

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あえて特定の草の種を蒔いたり、時にはしっかりと刈り込んだり。
「植物は話をしてくれない。だからじっと見つめて考えるしかありません。」
まさに終わりのない自然への挑戦です。


都濃ワインのたどってきた歴史、今ワイン造りの現場にあるさまざまな状況、
農家の人々との関係、醸造する側と栽培する側の意識の変化…。

どの言葉にも、なるほどと頷かされる説得力と深い洞察力に満ちています。
そして赤尾さんの言葉に力強さを与えているのは、
未来への課題とそれを実現するための活力。
つまり簡単にいえば(あまり好きな言葉ではありませんが)「夢」です。

各ワインのテイスティングにも付き合っていただき、
醸造の現場でもこれから試してみたいことなどをいろいとろとうかがいました。

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4月にリリースされたばかりの「シャルドネ エステート2008年」は
ボトリングからまだあまり間もないからか、やや閉じ気味。
香りもおとなしく、まだすべての実力を発揮してない気がします。
それでも柑橘のニュアンスがとても魅力的。
少しだけ寝かせれば、かなりイイ感じになりそう。

「シャルドネ アンフィルタード2008年」は芳ばしい樽の香りがイイ感じ。
骨格のしっかりしたシャルドネはその香りに負けていないどころか、
ふくよかな果実味と絶妙のバランスを保っています。
今飲んでもスゴく美味しいのですが、こちらも少し落ち着けば
とても芳醇なワインになるはずです。

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「マスカット・ベリーA エステート2008年」はトップに品種独特の香りがして
変な言い方ですが「ベリーAらしいベリーA」。
フィニッシュは軽めですが、とてもチャーミングなワイン。
ほんの少し冷やせば、鉄板焼きなどの肉・魚混ぜ混ぜのグリル系にバッチリのはず。

「キャンベル・アーリードライ 2008年」は楽しくワイワイと飲めるタイプですが、
ボディは想像以上にしっかり。
決してぼやけない味わいの、きりっとしたワインです。
都濃ワインでは、なるべくラブルスカ香を抑えるよう、苦心しているそうです。

「毎日毎日、畑へ行き、それぞれの葡萄の変化や違いを
 しっかりと見極める。
 そうしているからこそ、できるようなワインを造りたい。」

おそらく近い将来、その言葉が「なるほど」と納得できるワインが
世に出ることでしょう。

「小畑は機関車のように、すごい勢いでどんどん進んでいく。
 だから時には衝突も起きる。
 それをフォローして、具現化していくのが自分の役目です。
 2人しかいないから、ずるずる流れていかないよう
 あえて反対のことばかり言うこともありますよ。」

「醸造に関していえば、自分はまだとても小畑にはかなわない。
 自分は『片手にワイン、片手には土』というのが信条です。」

今後の東京などでの展開についてうかがったところ、
まず地元でしっかり消費を増やし、足元をしっかりと固めてからにしたい、
というのが赤尾さんの本音のようです。
数万本のワインも、本当はすべて対面で販売したいくらいだとのこと。
その気持ち、想像できるような気がします。

3月にうかがった小畑さんのお話にも強烈なインパクトがありましたが、
赤尾さんとの出会いはある意味、それ以上の衝撃でした。

「こないだの都濃ワインは小畑バージョン、今日は赤尾バージョンですね。」と
ご本人は笑っていましたが、ホントにどちらのバージョンも凄いです。

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都濃ワイナリーのクリーンなワイン、洒落たエチケットの奥には
桁外れの情熱が潜んでいました。
その素顔はワイナリーを訪ねてこそ、知ることができたといえます。
旅行を通じて、またでっかい収穫を得ました。

お忙しいところ、長い時間を割いていただいたことに
改めてお礼をいい、ワイナリーを後に。

赤尾さん、ありがとうございます!とても濃密な時をすごすことができました。
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by inwine | 2009-06-06 07:49 | ワイナリー訪問