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大阪 『カタシモワイナリー』

大阪2日目の前半は、カタシモワイナリーにお邪魔しました。
当初は平日に時間を割いていただく予定だったのですが、
こちらの日程の事情で、休日のワイナリーツアーに便乗させてもらうことに。

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約束の朝10時少し前に、高井利洋社長を訪ねました。
案内していただいたのは、テイスティングルーム。

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以前は倉庫だったそうですが、訪問客を迎えるために
水回りの設備やカウンターバーを設置したそうです。

これは実際に使われていた醸造の道具。

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「少し前まで現役」という感じのバスケットプレスなどは
他のワイナリーでもよく展示されています。
しかし、ここまで歳月が生々しく伝わってくるものはあまり多くありません。
メルシャンの博物館を見学したときのことを思い出しました。

カタシモワイナリーの創業は大正元年。まもなく百年を迎える老舗中の老舗です。
高井社長は直系の三代目。
お会いしてすぐに、溢れるような若さとバイタリティが伝わってくる方でした。

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ご挨拶したあと、早速大阪の葡萄栽培とワイン醸造について少し質問。

「大阪のワイン醸造の歴史は、日本酒の技術を取り入れて生まれたもので
 山梨の醸造の歴史とは少し系統が違います。」

「酵母もマスカットベリーAの皮を使って独自に作りました。
 ボルドー液を最初に使ったのも、実は大阪。」

淀みなく語られる話は、どれも興味深い内容ばかり。

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中野喜平を祖とする大阪の甲州(堅下本ぶどう)の歴史は
漠然とした知識としては知っていたのですが、
今回、改めて詳しい話をうかがうことができました。

明治11年、堅下村(当時)の複数の篤農家が苗木生育の命を受けます。
中野喜平はその中で唯一、栽培に成功。
これを機に堅下では葡萄栽培が盛んになりました。

カタシモワイナリーの創業者、高井作次郎氏も明治初期に土地の開墾に着手。
大正元年に最初のワイン醸造を行いました。
これがカタシモワイナリーの出発点となっているわけです。

大阪でワイン作りが一気に広まったきっかけは、昭和9年の室戸台風でした。
もともと河内周辺は生食用のデラウエア栽培が非常に盛んでしたが
このときの台風被害は壊滅的なほどでした。
そこで農家の救済策として、ワイン醸造が特別に許可されたのです。

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以降、ワイン産業は順調に拡大。最盛期には大阪全体で119軒も醸造所があったそうですが
大正創業のカタシモワイナリーは、この黎明期の醸造所よりも、さらに古い歴史があることになります。

ちなみに梅酒で有名なチョーヤも、119軒のひとつ。
本社は羽曳野市にあり、創業当時はワイン造りが本業でした。

しかし現在、本格的に醸造を行っているのは5軒のみ。
地元大阪でさえ、かつてワイン産業が盛んだったことは知られていません。

こうした現状に高井社長は強い危機感を抱いています。
お会いしている間、表現は変わりながらも
繰り返し「大阪は一致団結して産地を守らなければ」という内容の言葉を聞きました。

今、山梨でも甲州葡萄の生産減少が大きな問題となっていますが
大阪が直面する問題はより根が深く、重大なようです。

実は今回の訪問で、私自身は予想以上に葡萄畑が多いことに驚いていました。
しかし、それはやはり知識のなさゆえのことだったようです。
「昔はこんなもんじゃなかった」と語る高井社長の言葉からは
独自の歴史を持つ葡萄産地の誇りが伝わってきました。

近年は特に、自社畑周辺でも耕作放棄地が増えてきたそうです。
高井社長は人手不足に苦しみながらも、そうした畑で葡萄を栽培。
土地の伝統を守ろうと懸命な努力を続けています。


さて、いよいよワイナリーツアーがスタートです。
参加者は我々を除いて10名。珍しいことだそうですが、今回は全員大阪の方でした。
しかも10人中、9人が女性。
東京から来たおじさん二人組は明らかに浮いています。

まずは「皆さんはどんなワインがお好き?」という質問からスタート。
思い思いのことを話す言葉を受けて、高井社長が絶妙な間で笑いをとり
雰囲気は次第にほぐれていきます。さすがは大阪。素晴らしいです。

簡単な説明のあと、すぐに畑へ出発。
「そや、メガホン持ってこ」と社長が手にしたのは拡声器。
ワイナリーへ向かう道すがら、話はまず町の歴史から始まりました。

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ワイナリー周辺は細い路地が続く、実に風情がある町並み。
畑は山の斜面に広がっているのですが、そこに至るまでは古い民家が建ち並んでいます。

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近々、この一帯は橋下府知事の「大阪ミュージアム構想」のもと
地面に石畳が敷き詰められる予定だとか。ますます良い雰囲気になりそうです。

「どうです。いい町でしょう?」
高井社長の張りのある声が拡声器を通して、響きわたります。
もはやワイナリー見学というより、リアル遠足。なんだか楽しくなってきました。

いよいよ畑のある山が見えてくると、参加者の中から
「え、アレ登るの?」というざわめきが。
無理もありません。まるでスキー場のような急勾配です。
しかも寒波が来ていたため、寒い!

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「はい、ここから登りますよー」という声とともに山登り開始。
出発前の「ヒールのある靴の人は、長靴に履き替えて」という言葉は
ただの脅しではありませんでした。
歩いていると、足の甲が斜めに曲がっているのをはっきりと意識します。
雨が降っていたら滑ってしまって、かなり危ないはず。

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それでも高井社長の歩く速度は、進めば進むほどアップしていきます。
最初は残った葡萄を食べて楽しんでいた参加者の方々ですが
だんだん遅れる人が目立ち始めました。
このワイナリーツアー、楽しさは満点ですが甘くはありません。

自社畑はほとんどが棚仕立て。中には樹齢80年にも達する甲州の樹もありました。

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垣根はレゲントやリースリングなどの一部だけです。
ちなみにリースリングは単一品種のワインとしてもリリース。
残った実を食べさせてもらいましたが、12月中旬でもまだ酸がしっかりと残っていました。

大阪には、なぜかリースリングを植えているワイナリーがたくさんあります。
単一品種で正式にリリースしているのは、今のところカタシモだけ。
しかし今回、回った4社は例外なく栽培しており、しかも皆、ある程度の手ごたえを得ているようです。

大阪は気温が高いというイメージがあったので
ドイツ系品種のリースリングはあまり結びつかず、意外だったのですが
もしかしたら秘密はこの斜面にあるのかもしれないと思ったりもしました。

畑を回りながら、続いての講義は「紫ぶどう」について。
これは中野喜平による堅下本ぶどうの導入以前に育てられていた品種で
数百年の歴史があるといわれています。
実はこの品種も、現在の甲州とDNAが一致することが、近年の研究で分かったとのこと。

ここは大阪の有名フレンチ「カハラ」(ミシュラン2つ星だそうです)の専用区画。

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上から見下ろすとこんな感じ。ワイナリーがはるか遠くに見えます。

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まだまだ上へ行く予定だったようですが、予想外に遅れる人が多くなり、残念ながら「途中下山」。

帰り道では、民家の庭にある棚も見せていただきました。

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昔はどの家にも、こんな風に葡萄棚があったそうです。

神社や由緒ある井戸にも寄って、ワイナリーへ。醸造施設や貯蔵室を見せてもらいました。

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木製のピュピトルも。

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驚いたのはブランデーの蒸留器。なんと高井社長の手作りだそうです。

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最後はスタート地点のテイスティングルームに戻り、皆さんお待ちかねの試飲。

「辛口を」「甘いの」「白」「赤がいい」といろんな声が上がります。
「お客さんたち、怖いわ」「もう赤字でっせ」とこぼしながら、高井社長が次々とワインを空けていきます。

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『カベルネ・ベリーA 2007』はトップノーズのハーブっぽい香りが印象的。
どこかエキゾチックで東洋的な芳香です。
カベルネがきれいに熟していて、青臭さはほとんど感じられません。

『メルロ&マスカットベリーA 2009』ははじめに土っぽいメルロらしい香り。
温度が上がってくると、ベリーAのキャンディー香が強く立ってきます。

いずれも自社畑と買い葡萄のブレンドですが、バランスが良く
2000円前後とは思えない洗練されたワインです。

『合名山 堅下甲州葡萄 2009』はクラシックな甲州のスタイルを思わせながら
柔らかく、広がりのある味わいが実に魅力的です。
『軽さ』とも『エレガント』とも少し違う、なんともいえない柔らかさ。
この独特の個性は品種を問わず、
今回の旅でお邪魔したワイナリーすべてで、なんとなく感じた気がします。

こじつけに過ぎないのは分かっているのですが、この柔らかさは一見キツそうに思えて
実はあたりの柔和な関西弁と、どこか共通するように思えてなりません。

最後に「コレも」と空けてくれたのが、瓶熟成中の「合名山 シャルドネ 2009」。

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最初はまだ還元的ですが、空気に触れさせるうちに品種香、柔らかい果実香が立ち上ってきました。
酸、アミノ酸的な旨み、果実味など今の段階ではまだバラバラですが
どの要素もひとつだけが突出していることはなく、バランスのよい構成が感じられます。
余韻は今の段階でもかなり長め。熟成を経れば、きっと素晴らしいワインになりそうです。

カタシモワイナリーに感じるのは、老舗らしい安定感。
あまり高価格帯のワインでなくとも、きっと美味しいのではと思わせてくれます。

では高価格帯のワインは?
それを確かめようと思って、今回は5000円超の自社畑メルロも買ってみました。

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意外にも(?)アメリカンオーク熟成だそう。どんな味なんでしょうか。
飲むのが楽しみですが、いつ空けていいのやら。
ちなみにワイナリーから少し離れた売店は、この看板が目印。いい味出してます。

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進取の気性。負けん気。ユーモア。プライド。そしてせっかちさ。
高井社長は大阪人のイメージすべてを体現しているかのような、とても魅力的な方でした。
これからカタシモワインを飲むときには、必ず社長の顔が頭に浮かぶはず。
これこそが日本ワインならではの特権です。

次は仲村わいんにうかがうんです、とお話したら、その場で仲村社長に電話してくれました。
「あんた、この人たちに剪定でも手伝わせる気やろ? もう準備してる? やっぱりな!」と爆裂トーク。
最後まで笑いがいっぱいでした。

長い時間お世話になり、本当にありがとうございました。楽しかった!
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by inwine | 2009-12-31 02:12 | ワイナリー訪問