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大阪 『比賣比古(ひめひこ)ワイナリー』

関西の旅二日目は、午前中にワイン仲間のTさんと電車の中で合流。
そのまま大阪・柏原駅へ向かいます。
神奈川から始発でやってきたTさん、昨夜は徹夜ということでさすがに眠そう。
日本ワインラバーの方はみんなタフで熱心です。

大阪ワイナリーめぐり、最初の訪問地は『比賣比古ワイナリー』。
高尾山という、標高300メートルほどの山の頂上近くに畑と醸造施設を備えています。

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ここの最大の特徴は、なんといっても『ファミリーゴルフランド』という
ミニゴルフ場が併設されていること。
というより、正確にはゴルフ場にワイナリーがあると言ったほうがいいかもしれません。

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柏原駅からタクシーに乗ったのですが、『ワイナリー』といっても
運転手さんはピンとこない様子。
そこで「打ちっ放し練習場の上にある、ミニゴルフ場です」と言うと
「ああ、そういえばありますな、ゴルフ場」ということで分かってもらえました。

入り口にも、ワイナリーらしき気配はほとんどなし。
かろうじて看板に「ひめひこワイン」の文字がある程度です。

まずは醸造・栽培の仕事をほぼ一人で担う、照屋賀弘さんにごあいさつ。
瓶詰め作業中のお忙しい中を、快く迎えていただきました。

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葡萄の樹は各ホールの間を埋めるように植えられています。
つまり畑の脇を歩きながら、プレイが楽しめるという格好。

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ゴルフ場というと、すぐに鮮やかな緑の芝が頭に浮かびます。
この手入れには当然、農薬の散布が欠かせません。

『ファミリーゴルフランド』でも、前の持ち主のときはしっかりと農薬が使われていました。
しかし、ひめひこワイナリーでは葡萄作りを始めるにあたって
除草剤を一切使わずに育てることを決意。

ゴルフ場管理の会社には
「ゴルフ場と畑、どっちを残すんですか?」と聞かれたそうです。
「両方や!」と答えると、「それは無理です」とあっさり返事がきたとか。
しかし照屋さんは芝も人力で手入れをすることで
今も除草剤の影響を一切受けない葡萄造りを実現しています。

実質的にはたった一人で畑も芝も管理しているのですから、苦労は並大抵ではないはず。
無理といわれると、かえって負けん気を燃やす照屋さんのガッツが伝わってきます。


現在、ワインに主に使われているのはカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、マスカットベリーA、甲州。
しかし敷地の中ではこれ以外にもリースリング、テンプラニーリョ、
ピノ・ノワール、ナイアガラをはじめ、実に多くの品種が植えられています。

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また栽培・醸造の手法は従来の枠にとらわれることなく
品種ごと、年ごとにさまざまな試みにトライしているんだと教えてくれました。

これは棒仕立て(?)

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こちらはカベルネ・ソーヴィニヨンの畑。
ただし2列のみ、キャンベルアーリーだそうです。

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樹齢はキャンベルが10年、カベルネが8年とのこと。

ピノ・ノワールに挑戦したきっかけは、
「大阪でピノなんか無理」といわれ、「やってみなければわからない」と反発したからだそう。
温和そのものの照屋さんの笑顔の下にある反骨精神が、ここでも垣間見えました。

畑の手入れはまさに重労働。
夏には一日に5キロ体重が減ることもあるほどだそうですが、
そうした日々の作業に追われるだけではなく、
新しい可能性を追い求めるその姿勢には、まさに頭が下がる思いです。

これだけの苦労をしながらも、照屋さんにはあまり「求道者」の面影はありません。
飄々としたその物腰には思うまま、自然のままの
力の抜けた、どこかほっとするような雰囲気があります。

後日うかがった仲村わいん工房の仲村さんは、照屋さんを
「ええ男ですやろ?」と仰ってましたが、まさにその通り。本当にいい人です。

ところで大阪のワイナリーがいま、共通して抱えている悩みは
ここ数年で急増したイノシシやイノブタの被害。
垣根畑では葡萄の房を食い尽くし、棚の畑では地面を徹底的に掘り返してしまいます。

これはイノシシが食い破ったフェンス。強烈な破壊力です。

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「こっちの奥ですよ」と案内してもらった囲いの中には…

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いました。イノシシ&イノブタ。
寒いのか警戒しているのか、ぴったりと体を寄せ合っています。

しかしデカイ! こんなのと突然出合ったらかなり怖いはず。

憎きイノシシといえども、無許可で駆除することはできません。
今はイヌに尿の匂いを教えているところだそうです。

ひめひこワイナリーでは被害は畑だけに留まりません。
この広いグリーンを一面穴だらけにされた時は、さすがにショックだったそうです。

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さらに少し登ったところにある、見晴らし広場にも案内してもらいました。
階段をのぼって、前方に広がった風景はまさに絶景! 大阪全体を一望できます。

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今回の旅行の間は、ちょうど日本中を寒波が襲っており
頂上には強風が吹きすさんでいましたが、
そんな寒さを忘れてしまうほどのすばらしい眺めでした。

春には周辺を桜の花が埋め尽くすそう。
どれほど華やかな光景か、想像するだけで楽しくなります。

以前はこの広場のあたりも畑があったそうで、棚の一部が今も残されていました。

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醸造設備を少し拝見したあと、最初の建物に戻って試飲をお願いしました。

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試飲カウンターの奥には甲州を使った「康」のボトルが並んでいます。
ここで同行のK氏があることに気づきました。

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よくみるとボトルの形がいろいろあります。
もしやいろんなキュベがあるとか??

「いや、あんまり同じボトルばっかりじゃアレかなと思いまして。」

ホントに飄々とした面白い方です。

まずはその「康」からテイスティング。

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香りは品種の個性が前面に出ていて、王道といった感じ。
特筆すべきは口に含んだあとの味わいの広がり。
太い柱が真っ直ぐに突き抜けるのではなく、
丸く、柔らかみを帯びた厚い旨みが拡散していきます。

飲み込んだ後の余韻も長い。これはすばらしいワインです。

次はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロのブレンド「博」。

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以前、ある方にご馳走になったことがあるのですが
そのときにも、スケールの大きな味わいに感激しました。

果実味も酸もボリュームがありますが、ワイルドなキャラクターではなく
なめらかな口当たりがとても魅力的。
ちょっとびっくりするような完成度です。

そして次に出していただいたのがマスカットベリーAの「華」。
瓶詰めしたばかりの2009年ヴィンテージです。

かなり淡い色調。一見、ロゼかと思うほどです。
透明度は高く、とてもきれい。

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照屋さんによれば、アルコール発酵の段階ではより濃いめの色合いだったそうですが
MLFの段階を経たことで、かなり淡くなったとのこと。

しかし口に含むと、この色調の印象は完全に裏切られます。
しっかりした酸とタンニン、そしてイチゴそのものの甘い香りと果実味。
嫌味がまったく感じられず、ひっかかりなくいくらでも飲めてしまえそうですが
決してボディが軽いわけではありません。
バランスがよいため、ストレスを感じないのです。

うーん。これはイイ。
「ベリーAらしさ」をどこに求めるかは人それぞれだと思いますが
このワインは確かに品種の魅力を存分に引き出し
素直な果実味と、酸やタンニンとのバランスを見事に実現しています。

そしてこのワイナリーに共通するのが、雑味の少なさ。
過度の濾過による、骨格の抜けてしまったような「クリーン」さではなく
ナチュラルに澄んだ味わいがなんとも魅力的です。

そのあたりについて聞いてみたところ、搾汁率の問題かもしれないという答えが返ってきました。
ひめひこワイナリーでは、昔ながらのバスケットプレス式の圧搾機を使用しているそう。
そのため、自然と搾汁率が低くなるとのことで、それで雑味が少ないのかも、というお話でした。

またもうひとつ感じるのが、どのワインも酸がきれいで美味しいこと。
尖ったところはなく、柔らかながらもしっかりとした酸味が
背骨のようにワインを支えています。

照屋さんいわく「酸が好きなんです」。
まさに造り手の個性がはっきりと伝わるワインです。

二人で「美味しい、美味しい」を連発していると、
「じゃこれも飲んでみますか?」と出してくれたのが、甲州の無濾過。
生産本数は少ないようですが、これがおどろくほど美味しい! 
濾過したタイプにさらに奥行きを加えたような、ボリュームのあるワイン。
勝手なことをいえば、全部を無濾過で出してほしいぐらい。


ところでピノ・ノワールは単に反発心から植えただけではなく
ご本人がもともと好きなワインでもあったそうです。
興味を持ったきっかけになったのは
ブルゴーニュの造り手、A&P・ド・ヴィレーヌ。

有機栽培、優しく素直な果実味など
確かに照屋さんのワインと共通する部分は多いかもしれません。
なるほどと思うような、ちょっと意外なようなお話でした。


畑、醸造施設、労働力。
現時点ではいろいろな面で制限もあり、
理想のワイン造りはまだ実現できていないと言います。
それでも「今できる、最高のことをやろうと思っています」と照屋さん。

これからワインはさらに進化を遂げていくはず。
来年、再来年はどんなワインが生まれるのか。楽しみで仕方ありません。

大阪最初のワイナリーでは、予想を遥かに上回る収穫がありました。
照屋さん、本当にお世話になりました。ありがとうございます!
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by inwine | 2009-12-23 16:32 | ワイナリー訪問